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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)95号 判決

原告

小林工業株式会社

右訴訟代理人弁理士

牛木理一

熊谷福一

被告

日本陶器株式会社

右訴訟代理人

松尾和子

弁理士

加藤建二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(特許庁における手続)

一  原告は、「エイテン テン」の片仮名文字、「EIGHTEEN―TEN」の英文字及び「18―10」の算用数字を順次三段に横書してなり(別紙参照)、商標法施行令第一条別表第一九類「台所用品(電気機械器具、手動利器及び手動工具に属するものを除く。)、日用品(他の類に属するものを除く。)」を指定商品とする登録第六七六二〇〇号商標(昭和三八年八月二四日出願、昭和四〇年五月二〇日登録、昭和五一年一月一三日存続期間更新登録)の商標権者であるが、右登録商標について、昭和四〇年一〇月一四日被告から登録無効の審判請求がなされ(特許庁同年審判第六七一九号事件)、特許庁は昭和四九年四月六日右商標の登録を、その指定商品中金属製台所用品及び日用品について、無効とする旨、本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その審決謄本は同年四月二七日原告に送達された。

(審決の理由)

二 右審決は、その理由中において、本件商標の構成及び指定商品を前項掲記のとおり認めたうえ、次のように要約される判断を示した。

右商標の構成に含まれる「18―10」のように「18」と「10」の算用数字をハイフンで結合したものは、その商標登録出願時または登録当時、ステンレス鋼における「クローム」と「ニツケル」との配分比率を意味し、その品質を表示するものとして一般に使用され、ステンレス製の台所用品及び日用品について用いられるときはその材料であるステンレス鋼の品質を表示するものであること、また、これは、英文字で「EIGHTEEN―TEN」と表示され、「エイテン テン」と称呼されることが証拠上認められるから、取引の実際に照らすと、右商標は、その指定商品の材料たるステンレス鋼の品質表示として普通に使用されている「18―10」の文字のとその称呼を併記したにすぎない文字に、同じ意味の英文字とその称呼を併記したにすぎないと一般に認識されるものと認めるのが相当である。

したがつて、右商標は、その指定商品中、ステンレス製の台所用品及び日用品に使用されるときは、取引者、需要者をしてその商品の材料たるステンレス鋼の品質を表示したものと認識させるに止まり、自他商品の識別機能を果さず、また、クローム一八%、ニツケル一〇%を含むステンレス鋼以外の金属を材料とする台所用品及び日用品に使用されるときは、取引者、需要者をしてその商品の品質につき誤認を生じさせるおそれがあるものであり、結局、その指定商品中金属製の台所用品及び日用品について、商標法第三条第一項第三号及び第四条第一項第一六号の規定に違反して登録されたものというべきであるから、同法第四六条第一項により、右商品の限度においてその登録を無効とすべきである。

(審決取消の事由)

三 本件商標は、わが国において普通「ジウハチ ジウ」と称呼される「18―10」の算用数字に「EIGHTEEN―TEN」及び「エイテン テン」の各文字を併記することにより、その数字を「エイテン テン」と称呼させるようにするとともに、右のような片仮名文字、英文字及び算用数字を順次三段に横書し、これらを結合して一体不可分に構成した点に特異性がある。なお、ステンレス鋼にクローム一八%、ニツケル一〇%を含むものがあることは争わないが、「18―10」の表示あるいは本件商標のように三種類の文字を順次三段に横書した特殊な構成の表示がステンレス製の台所用品及び日用品についてその品質を示すものとして使用されている事実はない。したがつて、右商標は、自他商品の識別機能を十分具備し、勿論、品質誤認を生じさせるおそれはない。

しかるに、審決は、本件商標について、全体的考察を怠り、右のような構成上の特異性を看過し、徒らに、その構成中「18―10」の部分のみを抽出し、これと同様の算用数字がステンレス製の台所用品及び日用品につきその品質を示すものとして使用されているという誤つた事実認定のもとに、右商標の登録要件(識別力)不登録事由(品質誤認を起す虞)の存否を判断したものであるから、その判断は誤りであつて、審決は違法として取消さるべきである。

第三  答弁〈省略〉

第四  証拠関係〈省略〉

理由

一前掲請求の原因のうち、原告が商標権を有するその主張の登録商標につき、登録を無効とする旨の審決の成立に至る特許庁の審判手続、標章の構成及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二そこで、原告主張の審決取消事由の有無につき判断する。右事実によると、本件商標は、「エイテン テン」の片仮名文字、「EIGHTEEN―TEN」英文字及び「18―10」の算用数字を順次三段に横書してなるものであるが、中段の英文字「EIGHTEEN―TEN」は、「18」と「10」の意味を有する英語であつてその発音を片仮名文字で表わすと、「エイテイーン テン」、「エイテイン テン」あるいは「エイテン テン」となり、したがつて、また、上段の片仮名文字「エイテン テン」は右英語の発音を片仮名文字で表わすものというべく、右商標の登録査定当時多くの一般人が右商標構成の各部分をそのように認識したであろうことは当裁判所に顕著なわが国における英語普及の程度に徴して明らかであるから、右商標は、これらの一般人により、「18」と「10」の算用数字をハイフンで結合したものに、同じ意味を有する英文字とその発言を表わす片仮名文字を併記したにすぎないと認識されるものと認めるのが相当である。すなわち、右商標の構成中英文字及び片仮名文字の部分は「18―10」の部分と観念、称呼を共通にするものである。原告は、右商標の構成により、普通には「ジウハチ ジウ」と称呼される「18―10」の算用数字を「エイテン テン」と称呼させるとともに、三種の文字を結合して不可分一体のものとした点に特異性があると主張するが、仮にこれを肯定しても、前段認定を動かすに足りない。ところが、〈証拠〉によれば、いわゆるステンレス鋼(不銹鋼)は、合金元素の配分加減により種類が極めて多いが、そのうち、一七ないし二〇%のクロームと七ないし一〇%のニツケルとを標準成分とするものは、「18―8(系)ステンレス鋼」または「18―8(系)」とも総称され、特に用途が広く、台所用品及び日用品の材料にも用いられ、その場合には、材料たるステンレス鋼の品質を表示するため、クロームとニツケルとの配分比を示す二個の数を、「18―8」「18―10」または「18/8」、「18/10」のようにハイフンまたは斜線で組合わせ、時には、これに「STAINLESS(STEEL)」を付加したものが、商品自体に刻印したり、販売宣伝用パンフレト、カタログ等に印刷したりして一般に使用され、取引業者によりそのような趣旨の表示として認識され、しばしば英語読みされていることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

そして、これらの事実を彼此考量すると、本件商標は、これをその指定商品中金属製の台所用品及び日用品に使用するときは、取引者、需要者において、ただ、ステンレス鋼の品質表示として普通に使用されている「18―10」の文字に、これと同じ意味を有する英文字とその発音を示す片仮名文字とが併記され、その商品の材料がクローム一八%、ニツケル一〇%を含むステンレス鋼であることが示されているものと認識する可能性が大きいことが推認されるから、結局、審決のいうように商品の出所表示力に欠けるところがあり、または、品質の誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。

以上の次第で、右商標の登録適格に関する審決の認定、判断に審決を違法たらしめる原告主張のような誤りがあるということはできない。

三〈省略〉

(石井敬二郎 橋本攻 永井紀昭)

〈別紙〉

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